体に優しい外科手術を目指す ~インタビュー~

 外科にかかったことはありますか?例えば「熱がある」ときは内科、「捻挫した」ときは整形外科など必要に応じた診療科を選んで受診しますよね。外科とはどんな治療をするのか、そしてその中でも手術について消化器・一般外科の担当医である尾嶋医師にインタビューしました。
 なお、本ページは、医療センターニュース令和3年度(2021年度)夏号の特集/インタビュー「体に優しい外科手術を目指す消化器・一般外科」を再構成したものです。
【インタビュー・撮影 令和3年5月24日(月)】

外科(一般外科)とは

消化器外科部長

消化器外科部長
兼 ロボット手術センター長
兼 内視鏡センター副センター長
尾嶋 英紀

 外科での治療のメインは消化器手術です。食道から肛門まで(食道・胃・十二指腸・肝臓・胆嚢・膵臓・小腸・大腸・直腸・肛門)が外科の対象部位であり、これらに起こった良性疾患および悪性疾患に対する治療を行います。

良性疾患

 胆嚢結石、鼠径ヘルニア、虫垂炎などがあります。その手術のほとんどは腹腔鏡で行い、傷が小さくて負担も少ないため、手術後の回復も早いメリットがあります。

悪性腫瘍

 多くは癌になり、そのうち食道癌・胃癌・大腸癌・肝臓癌といった消化器癌を扱っています。大腸癌にかかられる方は増加傾向にあり、治療の基本は手術による切除です。以前は開腹手術でしたが、近年は腹腔鏡手術が主流となり、2018年からはロボット支援手術が直腸癌(大腸癌のうち肛門から15cmの部位にできる癌)に対して保険診療の適応になり、当院ではロボット支援手術も行なっています。

癌の罹患率について(2018年時点)
  総数 男性 女性
1位 大腸 前立腺 乳房
2位 大腸
3位 大腸

※左右にスクロールすると表がスライドします。

データソース:全国がん登録
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

罹患率の高い大腸癌や胃癌を、消化器・一般外科で扱っています。

健康診断と外科(一般外科)

 骨折など外傷がない患者様の場合、多くは健康診断や検診で異常が見つかり、外科に紹介されて受診されています。例えば、大腸癌検診の場合、一次検査で異常が見つかった方のうち、残念ながら約30%の方が二次検査(大腸内視鏡)を受けられていません。実は、二次検査を受けられた方のうち、約3~4%の方に癌細胞が発見されているという現状から、二次検査を受けられていない約30%の方の中でも同じ割合で癌細胞が発見される可能性があります。

 疾患を早期に発見できた場合は、内科受診で済む場合もありますが、進行してしまい、部位の切除など手術が必要になると、外科での対応が必要となります。手術を行う場合は、体への負担に加え、入院に伴う費用と回復に至るまでの時間など、日常生活に影響が出ることは避けられません。

 できるだけ現在の健康生活を維持するためにも、定期的な健康診断等を受けていただくとともに、二次検査が必要となられた場合は、早期に検査を受けていただきたいと思います。

 また、やむを得ず手術を行わなければならない場合も、当院ではできるだけ患者様の体への負担が少ない低侵襲手術(※)が行えるように努めてまいります。

※低侵襲手術…体に負担の少ない手術

手術イメージ

外科手術の進展と医師の想い

 消化器手術といえば以前は開腹手術のことを指していました。開腹手術はお腹を大きく開けて行うため、患部を直接見て治療が進められるというメリットがありますが、体を切り開く部分が大きいと出血量も増え、術後の痛みも起こりやすいという点がありました。しかし、近年はおなかに小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術が主流になり、 患者様への負担は随分減ったのではと思います。

腹腔鏡手術のメリット

消化器外科部長
  • 傷が小さいので、目立ちにくい
  • 傷が小さいので、治りが早い
  • 回復が早く、入院が短期間
  • 術後、早くに体を動かすことができる

 当院そして個人としても、「患者様に負担の少ない治療を行う」という想いが根底にあり、悪性腫瘍・良性疾患に関わらず可能な症例に対して腹腔鏡手術を積極的に取り入れています。例えば、胆嚢結石・鼠径ヘルニア・虫垂炎などの良性疾患は、一般的に命を落とす病気ではありません。しかし、手術しなければならない場合でも「できるだけ体に負担をかけたくない」「傷を小さくしたい」と望まれる方が多くいらっしゃいます。場所にもよりますが、以前は10㎝ほどの切開が必要でしたが、腹腔鏡手術を用いることで5mmの穴を2箇所程度開けるだけで済むこともあり、患者様の負担軽減につながっています。

 ロボット支援手術も、低侵襲な治療方法の一つであり、消化器・一般外科では、直腸癌がロボット支援手術の対象となります。実は、癌の罹患率で最も多い大腸癌についてその約40%が直腸癌と言われています。直腸癌の手術では、自然肛門が残るかどうかが、とても重視されます。直腸癌は肛門から15cmの部位にできる癌のことです。そのため、もし肛門に近い部分に腫瘍ができた場合、自然肛門を残すことができずに、術後は人工肛門を作る場合もあります。そのほかにも、直腸は骨盤に囲まれているため狭く、付近には排便や性機能に関わる神経がたくさん存在しており、高度な手術技能が求められますが、ロボット支援手術をすることで、このようなリスクも軽減することができます。

手術

ロボット支援手術のメリット

  • 手ぶれ防止機能
  • 手よりも小さな器具で治療をする
  • 多関節で自在に曲がる器具で緻密な操作ができる

 元々、ロボット支援手術は狭い部分に適しているので、骨盤に囲まれていても問題なく、また周りの神経を傷つける心配も低く、将来的には直腸癌はロボット支援手術がメインの治療方法になる可能性が高いと言えます。そして緻密な操作ができることで、自然肛門を残せる可能性も上がります。人工肛門を作った場合、患者様の今後の生活に少なからずとも影響があるため、できるだけ自然肛門を残すことを目指し、直腸癌のロボット支援手術を導入しました。ロボット支援手術は2年前(令和元年5月)から行なっており、現在、県内北勢地域では消化器のロボット支援手術ができるのは当院のみです。

 また、大腸癌や鼠径ヘルニアの患者様は増えています。特に大腸癌は、食事の欧米化や大腸内視鏡のハードルが高いことから、なかなか減少することもないと言われています。当院の消化器・一般外科ではメンバーのそれぞれがロボット支援手術・腹腔鏡手術・鼠径ヘルニアなど得意な分野を持っており、それらを十分に生かした診療科を目指しています。大腸癌の二次検査に異常が見つかった方、外科受診を勧められた方、また「人工肛門になる可能性がある」と診断された方も、一度当院での受診についてかかりつけ医へ相談されてはいかがでしょうか。できる限り、患者様に負担の少ない治療に取り組んでまいります。

手術室

集合写真